2022年12月23日
産業用蓄電池(大型蓄電池)の種類と施設での活用例・設置する際の注意点

一般家庭で使う家庭用蓄電池はご存じの人も多いかと思いますが、産業用の蓄電池となると、事業の規模によっても異なるため、どのようなものか容易に想像がつかない人も多いのではないでしょうか。
家庭用の蓄電池も、容量の大きい「大容量タイプ」のものがありますが、それでも12kWhほどと、産業用の大型蓄電池に比べると小さいものです。
災害時にライフラインが遮断されると困るのは、一般家庭だけではありません。オフィスや工場・マンション・大型施設・倉庫などといった場所でも、万が一のために非常用電源の備えが必要です。
この記事では、産業用蓄電池の概要や種類、施設での活用例、設置する際の注意点について紹介します。
大容量の家庭用蓄電池との違いについてもあわせて紹介していますので、気になる人はぜひご覧ください。
産業用蓄電池(大型蓄電池)とは
産業用蓄電池とは、一般家庭以外の企業のオフィスや工場・公共施設・事務所や、ショッピングモールのような大型施設などで用いられる蓄電池のことをいいます。
消防法関連法令の基準をもとに、容量が規制対象(17.76kWh以上)になると、産業用蓄電池と定義されます。
家庭用蓄電池と同じように、東日本大震災をきっかけにその必要性が説かれるようになってきました。
例えば、病院などで災害時に万が一送電が停止してしまった時に一定の時間電力を供給する蓄電装置として備えられていたり、災害などでオフィスビル全体が停電してしまった時のサーバーの非常用電力として備えられていたりします。
蓄電池は災害時における非常用電源を主な利用用途としていますが、平常時の電力量平準化のために活用されることも多くあります。
さらに、太陽光発電システムなどの設備と連携することで、 再生可能エネルギーで発電した電気を自社で消費する「自家消費」が可能になり、企業や施設の省エネ効果が一層高まります。
小型の店舗などであれば10kWhほどの容量の蓄電池で十分なことが多いのですが、大型の施設となると、500kWh以上の容量が必要なこともあります。
そのため、産業用蓄電池は、家庭用蓄電池と比べて蓄電容量が大きいのが一般的です。
また、産業用蓄電池は、使用する電力の規模にあわせて蓄電容量を追加することも可能です。
産業用蓄電池の種類
産業用蓄電池として用いられる電池の種類には以下の4つがあります。
- リチウムイオン電池
- 鉛蓄電池
- ニッケル水素電池
- NAS電池
それぞれを詳しくみていきましょう。
リチウムイオン電池
リチウムイオン電池は、スマホやパソコンの他、家庭用蓄電池などにも用いられており、現在最も普及している電池です。CoやMnなどのリチウム含有金属酸化物、グラファイトなどといった炭素材、有機溶剤、リチウム塩から構成されています。
エネルギー密度が高く、設置面積を小さくできることや、寿命が10年程度と長い期間対応できるのが特徴です。
完全に密閉された構造となっており、電池を使用するときにガスが外に放出するのを防止できます。
他の蓄電池と異なり、充電の度に蓄電池の中に残った電力を放電する必要がないため、専用の放電機を買わなくて済むなど、コスト削減できる点もメリットです。
その一方で、金属酸化物などの原材料が高価であることから、価格が高いといったデメリットもあります。
鉛電池
充放電を繰り返し行える二次電池として最も古い、約150年前に発明されたのが鉛電池です。鉛、酸化鉛、希硫酸で構成されており、使用できる温度範囲も広いことから、自動車用のバッテリーとしても用いられています。
歴史が長く信頼性が高い他、比較的安価であることが特徴です。
しかし、エネルギー密度は小さく、高重量化してしまうといったデメリットもあります。
寿命は17年前後と他の電池に比べて長いものの、充放電回数が増えれば増えるほど性能は劣化していき、容量が下がっていくといった課題を持っています。
ニッケル水素電池
宇宙開発の用途で作られたのがこのニッケル水素電池です。現在ではハイブリッドカーなどの車載用途で利用されています。水酸化ニッケル、水素吸蔵合金、濃アルカリ水溶液などの材料で構成されています。
使用できる温度の範囲が広いのはメリットとして挙げられますが、寿命が5〜7年程度と、他の電池と比べると短い点がデメリットです。
また、水素吸蔵合金には、産出量が少なく抽出が難しいレアメタル(希少金属)の一種であるレアアースが用いられているため、原料調達の面でも課題を持っています。
NAS電池
NAS電池はナトリウム硫黄電池のことで、日本ガイシ株式会社が実用化に成功したメガワット級の電池です。ナトリウム、硫黄、ファインセラミックで構成されています。
寿命は15年程度と比較的長く、価格も安価であることが特徴で、大型施設向けに大容量化もできます。
設置面積を少なくすることも可能で、電力の低下を瞬時に察知する機能も備わっているため、設備が完全に停止するのを回避できます。
また、リチウムイオン電池には劣るものの、エネルギー密度が高いことも特徴です。
その一方で、運転時に300℃の高温が必要となることが、デメリットとして挙げられます。
産業用蓄電池の活用例
ここからは、病院・学校・企業オフィス・社会福祉施設においての産業用蓄電池の活用例を紹介します。
病院での活用例 −BCP対策として−
病院では、災害などの緊急事態時に損害を最小限に留め、事業の継続・復旧を目標とする「BCP」対策として産業用蓄電池を活用できます。
災害時における初期救急医療体制の充実・強化を図るための医療機関である「災害拠点病院」の指定要件として、「通常の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保しておくこと」が定められています。
大規模な病院のほとんどはこの要件を満たしていますが、災害の多い昨今、すべての医療機関で自院の電気設備を今一度確認し、改めて対策を見直す意味は大きいと言えるでしょう。
停電が長期間にわたると、燃料が不足し発電機が使えなくなることもあり得ます。
燃料の必要がない太陽光発電システムと蓄電池を導入しておけば、停電時でも電源の供給が可能になります。
学校での活用例 −災害時の避難場所や防災拠点−
学校は文部科学省の推進もあり、産業用蓄電池の導入が比較的進んでいます。
災害時には学校や公民館の他、福祉施設なども避難所となる可能性があり、学校以外の施設でも、災害時の対策として、再エネ設備や蓄電池の導入が検討されています。
学校に産業用蓄電システムを導入すると、災害時の避難所として必要な照明や空調、スマートフォンの充電などを始め、給水設備などの機器にも使用できます。
また、学校に産業用蓄電池や太陽光発電を導入することは、環境教育の一環としての活用もあわせて期待できます。
企業オフィスでの活用例 −非常時の業務継続−
近年、自然災害によって必要な機能を維持できなくなる企業やオフィス事業所が見受けられます。
機能が停滞してしまうことで、経済的な損失はもちろんのこと、企業のブランドイメージにも影響を与えかねません。
万が一停電した場合に備え、サーバーの情報を守るため、または通信手段を確保しておくために、非常用電源として蓄電池を採用する企業が増えてきています。
電気を蓄電池に貯蔵しておけば、非常時緊急時にも電源の確保が可能になります。
オフィスに蓄電池を導入することで、災害時の電源確保ができ、事業の早期復旧・業務継続につながります。
社会福祉施設での活用例 −入居者の安心・安全の確保−
少子高齢化社会を迎えた日本では、介護施設などの社会福祉施設の需要がより一層高まり、社会的な重要性も増しています。
要介護者や介助が必要な入居者の多い施設で、万が一の停電のために、施設内の照明や電動ベッド、簡易的な医療機器などを動かすための非常用電源を備えておくことはとても重要です。
産業用蓄電池を導入することで、燃料備蓄の心配もなく、入居者やそのご家族の安全・安心を確保する設備や機器のバックアップが可能になります。
産業用蓄電池を設置する際の注意点
産業用蓄電池を設置する際の注意点として、あらかじめ設置スペースを確保しておくことが挙げられます。
産業用蓄電池は、家庭用に比べて非常に大きな熱を発するため、排熱のための通気経路や設備が必要な場合があります。
また、蓄電池を屋外に設置する場合、本体を守るための建屋の検討が必要となることもあるでしょう。
建屋を新たに設置する場合は建築物とみなされ、役所に申請を出す場合もあります。
このような注意点を考えると、家庭用蓄電池とは大きく違いがあることが分かりますね。
大容量の家庭用蓄電池との違い
産業用蓄電池と家庭用蓄電池の大きな違いは容量です。
メーカーによっても大きく変わりますが、家庭用は最大でも5〜7kWhほどで、産業用となると、最低でも15kWhからとなり、容量の違いは明確でしょう。
その他、出力や使用できる機器などにも違いがあります。
しかし、最近では家庭用・産業用の区別は明確にはなく、臨機応変に使用できる蓄電池が増えてきています。
まとめ
産業用の大型蓄電池の概要と電池の種類、施設での活用例、設置する際の注意点について紹介しました。
特に、施設での活用例においては、具体的な活用イメージが広がったのではないでしょうか。
産業用蓄電池は、太陽光発電システムとの併用によってさらに有効的に活用できます。
産業用の蓄電池の導入を検討される場合は、太陽光発電システムもぜひあわせてご検討ください。
下記の記事では、産業用蓄電池の価格やメリット・デメリット、導入費用を抑える方法について紹介しています。
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